手打ちそば

2023年05月19日

【序章】
 宮城県の北部から岩手県の温泉地に向かう道程で最近は頻繁に下道の国道R4を走行しているが大崎市を抜けて栗原市に入り東北道築館ICを通過した先の築館市街地入る手前で交差点の右脇に大きな行燈看板を掲げるそば店が毎回気になる存在であった。
但しこの地は仙台市北部地域から向かう場合に昼食時間よりも早い時間帯に達する通過点となることが多く常に訪問の機会を窺っていた店であった。
 築館付近のR4を走行すれば誰でも一度はその視野に捉えている筈の大型そば店の屋号は「みやぎ冨美野」である。
今回は岩手県側から帰路の途中で偶々時間帯が昼食時となって訪問の機会に恵まれた「冨美野」の訪問記である。

【冨美野の位置と外観】
 仙台市や大崎市側からR4を北上し築館ICを過ぎた先の信号交差点で右奥に位置する冨美野の店舗建物を視認することができる。
冨美野ビュー
 冨美野の外観(by Google)

しかしドライブ中の撮影は慎まれるのでこの景色はGoogleストリートビュー画面の引用である。
この画面から理解できると思うが北向き(画面奥方向)に進行している場合冨美野の駐車場へ進入するには幹線国道の右折レーンを含む対向二車線分を横切る高いハードルに阻まれる。
冨美野周辺図google
 冨美野周辺図

しかし直前の信号で変則的な四叉路をr36に右折すれば簡単な左折のみで冨美野の敷地に乗り入れることが可能であるが敷地内の道幅は狭小なので運転は慎重に。
今回はR4を南下する道程であったので国道から左折するだけで駐車場に入ることができた。
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 駐車場

 国道に接する駐車場は10数台が収容可能で
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 行燈風の看板

国道から見えていた行燈風の看板は遠目で眺めていた印象より大規模な造りで瓦屋根風の雨除けの下は時計台の姿をした洒落た設えである。但し隣に設置された白色LEDの電光看板とは不釣り合いだが。
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 駐車場側の建物壁面

駐車場に面する店舗北側の壁面に掲げられている
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 壁面看板

ご覧の大型看板には手打ちそばの究極を求める手打ちそば職人の意気込みが語られ下段には蕎麦の実の石臼挽きから水廻し、練り(捏ね)、延ばし(打ち)、切り、茹でに至る手打ちそばの各工程が写真で紹介されている。

【冨美野の店内】
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 玄関

 この看板の右脇が玄関で二重のガラス扉を通って入店すると左手はガラス窓で仕切られた麺打ち場とその奥に厨房が配置されている。逆の右側は奥迄続く広いフロアの客席である、
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 客席

昼食時間帯ではあったものの遅めの訪問となり客席には余裕があったので最奥のテーブル席に着いた。この位置から眺める玄関方向の景色が上の画面である。建物の柱や梁を含めてテーブルや椅子等も黒色で統一されてやや暗めの雰囲気であるが何よりも光沢を放つ木目調の床板が印象的である。
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 卓上の用意

 着席した卓上には割箸やお手拭き、紙ナプキン、爪楊枝にグラストレイが用意されており窓際にはスタッフ不足故のセルフサービスが案内されている。但し案内に記されている品書きは卓上に見当たらず客席係から提供された。

【品書き】
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 手打ちそばとうどんの作り方

A3版程のカラー印刷紙面をラミネート加工し更に綴じて製本した品書(十割そば会でもこの類)は頁を平面的に開くことが極めて困難で写真撮影に難渋する対象だがここにも手打ちのそばとうどんの製麺工程が写真と伴に紹介されているので何とか撮影してみた。うどんの工程写真の右端が反射光で見えていないがこれが限界。
この店は手打ちうどんも提供している。
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 冷たいそば

 先ず冷たいそばを見るとざるそば¥660(10%消費税込価格以下同様)と1.5倍量300gの大ざるそば¥880に加えてのりざるそば¥770の存在から「のり」の文字を冠しないざるそばは海苔のトッピングがないと理解できる。
その他におろしそば¥800、とろろそば¥880は一般的概念の範囲だが共に¥1320の毘沙門そばと恵比寿そば、三味神楽そば¥1650に至っては冨美野独自に命名した世界でその内容把握には品名の下に括弧書きの小さな文字を読み取る時間を要する。
毘沙門そばは海老天2尾が付く200g普通盛の天そばで恵比寿そばは地鶏と海老天でそばは300gの大盛りということらしい。
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 暖かいそば

暖かいそばは海老天2尾付きの天ぷらそば¥1320の他に軍鶏そば¥950、なめこそば¥880、しいたけそば¥770等が続く。
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 手打ちうどん

個人的には興味が薄いのだがそばと同じく手打のうどんもなべ焼きうどんに天ぷらが加わる冷ぶっかけうどん、いか天ぷらうどんが各々¥770にカレーうどん、カレー天ぷらうどんと多彩な品揃えがある。
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 ご飯もの

手打のそばとうどんを売り物にする店ではあるがご飯もののうな重¥1210やカツ丼¥950、天丼¥1100等の丼類に天ぷら定食¥1650の用意もあり多彩さを誇っている。
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 釜飯

こちらは釜飯。基本となる五目海鮮、軍鶏、豚角煮の三種の釜飯が吸物とのセットで¥990、そば又はうどんのセット及び吸物に茶碗蒸しのセットがいずれも¥1210、そば又はうどんと茶碗蒸しセットの釜飯定食が¥1540。その他にも各種のそば(又はうどん)との組合せで多様な選択肢が用意されている。
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 ランチメニュー

更にランチ限定で供される天ざるそば(うどんも可)とミニサイズのかつ丼、イカ天丼、豚すき丼、カレー丼の何れかを組合せて¥1100(コーヒー付きは+¥220)の品の用意もある。
 基本的な品は手打ちのそばとうどん、白米ご飯に釜飯で構成されておりこれらに天ぷら類、大根おろし、とろろ、軍鶏、豚カツ、うなぎ、カレー、茶碗蒸し等を組み合わせることで和食系ファミリーレストラン級の多種多彩な料理を提供している。

【手打そば】
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 毘沙門そば

品書きは多彩だが訪問の目的は手打そばなので選択肢は必然的に冷たいそばに絞られる。
天ぷら付きのそばは普通盛200gで海老天2尾付きの毘沙門そばか大盛り300g3段重ねの恵比寿そばの二種で何れを選ぶか迷った末に毘沙門そばを発注した。
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 二段重ね

暫くして運ばれた普通盛のそばは丸形の蒸籠盛りだが実は二段重ねとなっており
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 二段の蒸籠盛りそば

各々の蒸籠に100gのそばが盛られているということらしい。従って先程迷っていた大盛りの恵比寿そばの3段重ねは100g×3段となるのであろう。
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 ざるそば

因みに同行者が選んだ普通盛のざるそばがこれ。そばは簀の子敷きの皿盛りでそばつゆは小型の徳利で供されそば猪口は一般的な縦長形状のもの。
一方天ぷら付きの毘沙門そばは広口で大型の徳利のつゆとそば猪口とは言い難い広口の小鉢が供される。ざるそばより大型の徳利はつゆも多めと思われる。猪口代わりの小鉢は天ぷらをつゆに浸す機能を考慮したものであろうが戴けない手法である。

【余談: つゆ猪口の形状】
 そもそもそばつゆと天ぷら用のつゆは塩味の濃度が大きく異なるのでそばつゆと天ぷらのつけ汁は各々別仕立てとしつゆの容器もそば猪口は一定の深さがあり濃いつゆに浸す麺の深さを好みで調整できる必要がある。天ぷらは薄口のつゆを均一に浸せる広口の浅皿が好ましい。
従って広口小鉢のつゆ容器は天ぷらにはそこそこの役を果たすがそばを浸す猪口としては浅底で機能不全を指摘せざるを得ない。
天ぷらを伴うそばではそば用のつゆ猪口と天ぷら用のつゆ皿両者の提供が何よりのもてなしと思う。

【毘沙門そば】
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 天ぷら

 毘沙門そばは品書きの通り2尾の海老に鶏と野菜の天ぷらが供される。
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 手打ちそば

 蒸篭盛りの手打ちそばはホシが見えず白味が強い麺で丸抜きで一番粉を主体とする製麺かと思う。
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 手打ちそば

割箸で掬ったそばは3~5㎜程にばらつきのある太めの仕上げで浅底のつゆ鉢に浸す作業には往生したが
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 山葵と

濃い目のつゆと太めの麺の相性は良く山葵の風味も加えて
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 色白の太麺

手切りのそばを味わった。
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 湯桶

食事の終盤を見計らって角型の湯桶で運ばれたそば湯は
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 そば湯

白濁濃度が高い釜湯風で
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 そばつゆ割り

広口小鉢の残りつゆに刻み葱の風味を加えて味わい初訪の冨美野でそば食を終えた。
このそば湯を深さのある猪口で戴けたらとの思いも捨てきれなかった。

【終章】
 冨美野は数十年前から国道脇で見掛けて興味を持ち続けたそば店でやっと訪問を果たすことができた。
店の規模は見掛けより大きく2階には宴会場もある様子。多彩な品揃えで万人向けのレストラン機能を備えているがその原点は手打のそばとうどんを提供する手打そばの店である。




(00:00)

2022年10月07日

【夕食】
 予め定めていた時間より少し前の18:10過ぎに部屋の入口から従業員の声が掛かり夕食の料理が室内に運び込まれる。
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 夕食膳
座卓上に処狭しと並べられた料理は一画面に収まりきれず
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 夕食膳
月形盆の右側に配置された料理は別画面となった。
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 先付
月形盆の中央に配置された先付料理は左奥の高坏に収まる野菜のマリネと三日月皿のニラ黄金和えに帆立和えの小鉢、蕗の煮物、飾り包丁を施したラディッシュの味噌和えで
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 蕎麦の実和えと茶碗蒸し
左隣りはなめこの蕎麦の実和えに茶碗蒸しが並ぶ。
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 鍋物
更に左側に配置された鍋物はもち豚のしゃぶしゃぶで
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 もち豚と野菜類
添付されている野菜類と共に固形燃料の鍋で熱を通して
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 もち豚のしゃぶしゃぶ
ポン酢味で戴く。
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 牛肉の握り寿司
右奥に控える扇皿の前沢牛握り寿司2貫は凌ぎの位置付けで早めに腹に収めた。画面に見える通り牛肉に載る薬味は下し生姜でしゃりにも胡麻の風味が仕込まれている。前沢牛は隣の奥州市前沢地区の名を冠するブランド牛であることは言うまでもない。
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 もずく酢
すし皿の手前は若布と胡瓜を合せたモズク酢にチョロギを添えた鉢物。
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 刺身皿
更に手前に配置された刺身皿は鮪とサーモン、帆立の3種盛。
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 鮪の刺身
海とは北上山地を介して遠く離れている山中の平泉でも物流網のお陰で海の幸を生食で味わえるのは有難いことと思う。
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 天ぷら
これらの料理を戴いていると遅れて運ばれた天ぷら皿には揚げたての南瓜、茄子、舞茸、しし唐等夏野菜が並び下し生姜と大根の薬味に薄味の天つゆが添えられえいる。
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 手打ちそば
更に食事の後半を見計らって運ばれるのがPart.2で紹介した室内の案内書にもあった打ち立てゆで立ての手打そば。屋号に「そば庵」を名乗る通り施設周囲の畑で自家栽培する蕎麦を手打した蕎麦切りが小さ目の蒸籠そばに仕立てて供される。薄く延した生地を幅広に切り分けた平打ち麺はつるつるした食感で喉越しの良いそばである。
因みに宿の周囲は畑が拡がり蕎麦に限らず多種の野菜を自家栽培している様子で早朝にはガイド付きの畑のお散歩が企画されていた。
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 ご飯、汁物と漬物
豚しゃぶ鍋を始めとする多彩な料理に前沢牛握りや手打そばを戴いた後は少量のご飯で満腹となり
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 デザート
メロンと巨峰の果物で締め括った。

Part.6はしづか亭の朝食



(00:00)

2020年08月14日

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  水産物の販売
果物の出店から道路を隔てた農協があるブロックには宮城県南三陸町の業者が例年出店している水産物販売があり若布や昆布等の水産加工品に加えて
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  網焼き
生のガキやホタテ等を網焼きで提供するのも恒例となっており
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  網焼きを待つ行列
焼き上がりを待つ客が行列を成している。
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  焼ガキ
 多岐に渡る出店を一通り探索したが740番台の入場には更に時間があったので網焼きの行列に加わってカキ焼を調達し待合テントのパイプ椅子に落ち着いた。

【入場】
 暫く待合所に待機した後12:50頃になって入場が可能となった。
玄関から会場内に入ると整理券が回収され前売券下端の入場券が切り取られた後にそばを受け取るお椀が渡されるのは例年通りの運営方式でその儘会場内を進んだ奥のカウンターに並んでそばを受け取る。受け取りカウンターは一杯目と二杯目が左右に分かれており二杯目の供給が優先されている様に見える。その理由は簡単で二杯目が滞ると入場者の会場内滞在時間が長引くので連動して新規の入場者の待ち時間も増えるという人間移動の社会原理に基づくものであろう。11:00~13:30の僅か2時間半の短時間に1500人を超える来訪者をスムーズに捌く工夫の一端が垣間見える。
 そばを受けたカウンターの左右にはつゆ猪口を並べるテーブルがありそば椀とつゆ猪口を両手に携えて会場内の空席に着席すれば新そばを味わう体制が整う。
 今回は入場からそばカウンターに至る会場内光景を一切撮影しなかったが以前の記事で何度も紹介してきた風景と大きな相違がない故とご理解願えれば幸いである。

【新そば】
 大石田の新そばまつりは冷そばの範疇にあるもりそばのみに限定されている。先に紹介した新庄そばまつりを始めとする多くの会場では冷たいもりそばと温かいつゆ掛けのかけそばから選択する方式が主流となっている。新そばまつりが開催される秋季は天候変動が大きな時季でもあり寒冷な日には確実に温そばの需要が増す筈だが大石田では冷たいもりそばに徹しておりそば切りの本質を無言で主張する頑なな姿勢にそば好きの小気味良さを感じる。
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  新そば一杯目
 客席に落ち着いて卓上にそば椀とつゆ猪口を配置すれば大石田産の新そばを味わう段取りが整う。
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  食べ放題の漬物
同じ卓上には刻み葱やチューブ入わさびの薬味とステンレス薬缶に収めたそば湯に漬物皿が用意されており漬物やそば湯は場内の担当者が巡回して随時補給されている。漬物は会場内に限り食べ放題となっており薬味と共に必要分を用意された紙皿に取り分けて戴く。
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  新そばのホシ
大石田産来迎寺在来の新そばは例年二八そばで供される。白味が強いそば切り麺には細かい粒子となった多数のホシが内部まで鏤められた透明感も備えている。
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  麺の太さ
割箸で掬ったそばは3mmh度に程に切り分けられた標準的な中細麺で適度な腰の強さとつゆの絡みが相俟って口当たりの良さを感じる。
嘗ては麺の太さに極端なばらつきがあり極太そばに苦言を呈した経緯もあったが最近の二八新そばは均等な品質が確保されていると感じる。
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  そば湯
食後のそば湯はそば食の礼儀作法で残ったつゆに薬味を加えそば成分のルチンが溶け込んだそば湯を加えて飲み物に仕立て余韻を楽む。
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  二杯目のそば
 暫しの余韻に浸った後は空になったそば椀と二杯目の引換券を携えて再びそば受けカウンターに向かう。
二杯目のそばはの外見は一杯目と変わらぬ印象で
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  二杯目のそばのホシ
透明感を感じるそばに内包するホシや
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  二杯目の麺
中細麺の切り寸法も一杯目との相違を感じない仕上がりに見える。
 10数名を下らない数多くの打ち手の手作業で前夜から用意されるそばは多少なりとも品質的なばらつきが在り得る筈だが3000食を下らないそばの提供で均等な品質を維持する職人集団の技は秀逸の評価に値すると思う。そば打ち職人の熱い想いを感じる。
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  そば湯
 二杯目も完食して二度目のそば湯を嗜み2019年の大石田新そばまつりの締め括りとした。

【終章】
 山形県内の蕎麦品種は大きく最上川上流の南部地域と下流側の北部地域に分かれており山形市や村山市などの南部では「でわかおり」、尾花沢市や新庄市などの北部は「最上早生」の栽培が主流となっている。
大石田町は北部地域に属しているが独自品種である「来迎寺在来」種を生産し11月下旬には20年以上も前から町の主催で盛大に新そばまつりを催す歴史を重ね「来迎寺在来」は大石田町産とのブランドを確立して来た。この様な実績からそば産業の振興に並々ならぬ想いを感じる町である。



(00:00)

2020年06月26日

【手打ち藪そば】
 品書の探索を一通り終えて手打ち藪そばの天ざるそば¥1050を注文した。品書にざるそばともりそばの区別がない事に気付いたので刻み海苔の有無を問うと海苔付きと確認できたので海苔無しの提供をお願いした。
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  手打ち藪の天ざるそば
暫くして運ばれた海苔無しの天ざるそばは簀の子を敷いた皿盛りで
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  薬味
刻み葱と練りわさびの薬味を収めた竹製容器に
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  つゆ徳利
そばつゆの徳利と猪口が付く。
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  天ぷら皿
別の角皿に盛られた天ぷらは南瓜、茄子、ピーマンと大葉(青紫蘇)の夏野菜4種に海老が加わる5品となっている。
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  手打ち藪そば
手打ち藪そばを称するそばは白身が強い中細麺に見える。
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  藪そば
仔細に観察すると透明感に乏しい表面に疎らに散りばめられた薄茶色のホシを認め。これらの外見から判断すると丸抜きの蕎麦粉に繋ぎ粉を加えた二八系のそばではなかろうか。
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  中細麺
割箸に掬い上げた麺は標準的な3mm程の太さに切り揃えられている。
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  手打ちそば
 今までの経験ではそば切りの工程が手作業なら切り幅に多少のばらつきや不規則な切れ端の混入も高い確率で認められる筈だが手打ち藪そばの太さはは極めて均質で機械切断の可能性が脳裏に浮かぶ。
実際に食すると中細の割には麺の腰が弱く茹で過ぎが疑われる。手打で捏ねてしっかり打った生そばを20~30秒程茹でたならもう少し強い腰を感じて然るべきかと思う。
つゆは甘めに仕上げられているが中細麺に適度絡む相性は良い。
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  わさびで
腰が弱い故か食感が物足りなく早々に練りわさびの風味を添えることになった。
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  麺の切れ端
大方のそばを食べ終えた後に残った短い切れ端は均一な太さを保ったまま千切れており腰の弱さの傍証かと思われる。

【天ぷら】
 薄衣の天ぷらは焦げ目もなくさくっとした食感が上質で塩味で賞味したかったが卓上に塩の用意はない。
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  天ぷら
従ってそばつゆが唯一の味付け手段となるのだが天つゆ用の器もないのでつゆ猪口を共用する羽目に陥る。つゆ猪口に天ぷらを浸すと天ぷらの油が猪口に溜るのでそこに冷たいそばを浸せば油の被膜を纏ったそばを食する以外の選択肢がない。
この様な事態を避ける為に気の利いた店ではつゆ猪口に加えて広口の天ぷら専用つゆ皿を添えており更に高度なサービスになるとそばつゆとは濃度を変えた天ぷら専用の薄めのつゆが専用皿で供されることもある。この様なサービス水準を誇る大概の店では岩塩や抹茶塩、柑橘塩などの塩味手段も欠かさず提供されている。
天ぷらが上質である故に食し方にも幾つかの選択肢が欲しいところだが今回は止むを得ず味付け無しで戴くことになった。

【そば湯】
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  そば湯桶
 そば湯はあちこちの店で良く見掛ける円筒型の湯桶に収めて供される。
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  そば湯
蓋を外して中を覗くと桶の底が見える程の透明な湯が張られている。ごく普通の釜湯であろう。
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  そば湯を注ぐ
残ったつゆにこの湯を注いでそばつゆを割りスープに仕立てるのはそば食の嗜みである。因みに先程紹介した麺の切れ端も加えてルチン成分の増加を図った。切れ端といえども残さずに戴くのはそば食の礼儀であろう。
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  そば湯スープ
そば食中には使わなかった刻み葱の風味も加えてそば湯を味わいそば食を終えた。

【さかち庵の代表者】
 さかち庵は外観で見た通り二階建ての母屋から東側に増築した平屋部分が店舗に充てられている。
店は男女で運営されており母屋に居住する夫婦が担い手と容易に想像できるが厨房内で立ち働く気配を感じる男性は客席からの声掛けには全く応じずご婦人らしい年配の女性が専ら接客を担当している。
先に述べたざるそばの海苔の有無や食後の清算で厨房に声を掛けても女性が現れるまで全く応答がなく厨房内からは女性を呼んでいる男性の声が漏れ聞こえていた。
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  店の名刺
既に紹介した会計時の会話で北海道産蕎麦を使用と聞いたのは女性からで会計レジ脇に用意されていた店の名刺は女性の代表者名が記されている。確か店内に掲出されていた衛生管理者も同じ女性名義となっていたので店主はこの人物なのであろうか。但し厨房の気配から伝わる雰囲気からそばを打つ主役は接客を極度に避けている男性ではないだろうかと思う。

【終章】
 平泉とはいえ中心部の観光地からは距離がある農村風景の集落で自宅続きに構える店舗は年配夫婦が営むちょっと変わった接客方式が気になるそば店であった。
 手打そばの品質には疑念が残るが天ぷらは上質と感じた。次に訪問する機会に恵まれれば今回は経験しなかった更科そばと手打ち藪そばの食べ較べを試みたいと思う。




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2019年10月25日

【序章】
 宮城県加美町の中新田地区でR457とR347の2本の国道に程近い住宅街に店を構える「手打そば竜聖」に久し振りに訪問する機会を得た。
手打そば竜聖位置図Google

この店は2014年9月に掲載した「宮城県央北部R457そば街道」の記事中で多数の蕎麦店と共に紹介しておりR457を通行する際の昼食処として度々利用していたが2019年の春は予定していた大崎市のそば店の休業に遭遇した末に久し振りの訪問となった。

【店舗外観】
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  店舗と駐車場
 店主の軽自動車が停まる店舗前駐車場の雰囲気は見慣た光景だが竜聖の屋号を掲げる青色の電照看板の上部が欠損している。
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  電照看板(2009年12月撮影)
嘗てはこの部分に同じ青地で手打そばの文字看板が嵌め込まれていたのは以前の写真で確認できる。

【店内】
 店内の様子は相変わらずで玄関を入った先の左手に拡がる土間には大きなテーブルが置かれ右側の仕切りは畳敷きの座敷席である。客席の奥は厨房の空間に充てられており座敷に近い位置にはそば打ち室が配置されている。更に言えば座敷と通路を挟んだ打ち場の右奥には小さな和室の設えもあり混雑時にはこの部屋に案内された経験もあり店内の様子の大部分は記憶の範囲にある。

【品書】
 空席があった座敷に席を定めて座卓上に用意された品書に目を通す。
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  品書
従来と変わらぬ写真入りの分かり易い構成だがカラー写真の色褪せ具合から長年使い込まれた年季を感じる。
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  以前の品書(2009年12月撮影)
因みに嘗ての品書の写真は色彩が鮮明であった。
ご飯ものや飲料に×印が付けられているのは以前と異なっているが温と冷の天ぷらそばとかもせいろ\1000にもりそば\700、ざるそば\500は少なくとも10年前と変わらぬ価格のままで提供されている。
 竜聖の品揃えは以前にも言及しているがもりそばとざるそばにこの店独自の特徴がある。
そば店の品揃えの一般的な概念ではもりそばよりも刻み海苔が添付されることが多いざるそばは僅かではあるが高額に設定されている。
しかし竜聖ではざるそばが低額でもりそばとは\200の価格差を設けている。その訳は品書の写真で見る通り漬物皿を添えただけのざるそばに対してもりそばではざるに加えて3種の小鉢料理が供される故の価格差である。ざる、もりと天ぷらそばのいずれも刻み海苔の添付は無い。

【もりそば】
 ¥1000の天ぷらそばは手頃な設定だがこの店の天ぷらは端部が焦げ気味で揚げ過ぎ感が強くあまりお勧めできない。従ってこの店では3種の小鉢料理が添付される¥700のもりそばを注文することが多く今回も迷うことなくもりを発注した。
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  もりそば
暫くして運ばれたもりそばはいつも通りの蒸籠盛りで徳利のつゆに薬味の小皿が添えられる。
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  薬味
薬味は刻み葱ともみじ下しで胡瓜の浅漬けが加わる。
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  漬物とお浸し
3種の小鉢料理は季節の素材が主体で今回は青菜のお浸しに
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  小鉢料理
木耳と南瓜の煮物であった。木耳の煮物は訪問する度毎に欠かさず供されてる竜聖の定番料理である。
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  手打ちそば
手打ちのそばは白味を帯びた表面に疎らなホシが見えているが内部に透き通る様な透明感はない。
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  中細麺
割箸で掬い上げると3~4mm程の中細麺で食し易いしなやかな腰を備えている。

【店主の雑談 閉店?】
 そば食中に土間のテーブル席に着いた常連客と厨房作業が一段落した亭主夫妻の雑談が漏れ聞こえてきた。
亭主が述べるには「歳も歳だしそろそろ店を閉じて引退しようと考えている」と。常連客が留意の発言をすると奥様は「まだ決めた事ではないし勝手なことを言ってるのよ」と応じていた。
老夫婦で切り盛りする店に後継ぎの姿は確認できないので今後の竜聖はどうなるのだろうかと思いながらそば食を終えた。
 因みに亭主は嘗て役場勤務の公務員であったらしいが一念発起して同じ加美町内小野田の薬莱山に店を構える「宗右衛門」でそば打ちを修行した後に現在の中新田で竜聖の店を開いたと聞き及んでいる。

【そば湯】
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  そば湯
 食後の楽しみは何時もの通り
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  そば湯を注ぐ
つゆの残りにそば湯を加えて
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  そば湯割り
そばつゆのそば湯割りの飲料を調製してそばの香りを満喫した。

【終章】
 加美町中新田のそば専門店「竜聖」は国道に近い立地で10年程前から通り縋りで気軽に立ち寄ることができる店であった。
老夫婦が営む店は2019年の春迄従来と変わらず営業を続けていたが今後の動向が気掛かりである。




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