そば湯
2024年03月08日
【序章】
昨年(2023年)の11月末に宮城県北端山岳地の駒ノ湯を訪問した際に通過した昼食時間帯に栗原市築館で市街地から少し西に外れた田園地帯に店を構える「蕎麦祥」に立寄る機会を得た。因みに駒ノ湯の訪問記は後に掲載する予定である。
「蕎麦祥」は二度目の訪問で初訪時のレポートも過去記事(アーカイブ版)に保存しているので参照戴きたい。
【蕎麦祥への道筋と位置】
仙台市方面から蕎麦祥に至る道筋と店舗の位置は過去の記事で詳述しているので思い切り省略するが大まかに言えば
国道R4とR398が交差する築館の市街地から西に外れた田園地帯で営業する蕎麦専門店である。
【蕎麦祥店舗の外観】
築館の中心部から花山方向に西進するR398から南に外れて市道と思われる田園地帯の道路を進むと
道端に立つ幟の奥に蕎麦祥の店が現れ建物前に5~6台駐車可能な広場に車を停める。
平屋に切妻屋根を載せた建物は簡素な造りだが屋根上にはソーラーパネルが設置されている。左隣に近接する2階建の民家は経営者の自宅であろう。
建物中央の軒下に暖簾を懸けた玄関から入店するが玄関前に配置されたスタンド型の灰皿は店内禁煙の証に見える。
【店の内部】
店内は
右手の手前側がフロアに椅子を配したテーブル席でその奥には靴を脱いで上がる畳敷きの座敷が控えている。
左側は全て厨房に充てられており経営者と思われる老夫婦とその跡継ぎに見える男性が忙しく立ち働いている様子が垣間見える。
【蕎麦祥の品揃え】
空いていたテーブル席に落着き備え付けの品書とは別にラミネート加工されたA4版の紙にそばの説明がある。
この説明に依ると蕎麦祥では基本となる3種の手打ちそばが用意されている。
せいろ … 二八配合そばは細麺で喉越しが良い一般的なそば
田舎 … 十割(繋ぎ粉を加えない100%)そばで太めで固いが風味が良い
日替り … 更科粉の二八そばは風味が弱いので
日替りで煎ったけしの実かレモン皮の摺下しで風味付け
これらの3種は三色盛りや二色盛りの注文も可能である。
品書を開いた最初の頁には冷そばの品々が並ぶ。
基本のそば3種はせいろ¥900、田舎¥930、日替り¥1,000と価格差があり3種から2種を選べる二色盛りが¥1,280、3種全ての三色盛りは¥1,550で大盛りは¥350増と設定されている。そばとろ(とろろそば)と鴨せいろ各¥1,320はせいろに単品のとろろ又は鴨汁の¥420を加算した分り易い設定である。ぶっかけそばの¥1,220は単に冷たい汁をかけただけでのそばならやや高額に見えるので葉物野菜等何がしかのあしらいが含まれるかと思うが詳細は不明である。天せいろ¥1,620もそこそこ高額だがこの価格帯なら天種には海老や鱚等の海鮮素材が採用されているのであろうか。兎に角この種の品書には画像情報がないので想像を逞しくするのみである。
次の頁は温そばだが僅か4品に限定されておりかけそば¥900をはじめとする価格も冷そばのせいろ(二八そば)に対応した設定となっている。従って温そばは全てせいろの品揃えであろう。
蕎麦祥にはそばだけでなく手打ちうどんの用意もある。
本ブログの趣旨はそばにあるのでうどんに関わる考察は省略するがせいろのそばに対応する冷たいざるうどん、ぶっかけうどん、鴨汁うどん、天ざるうどんに加えて温かいかけうどん、鴨南蛮うどん、天ぷらうどんの全ては対応するせいろそばの品と同額に設定されている。
品書には更に宴会料理の紹介もあるが省略する。
【せいろと田舎】
蕎麦祥の訪問時も同行者に恵まれていたのでせいろと田舎を注文した。二人で二色盛りを選ぶより割安で2種のそばを味わえるが価格差に応じてそばの量は二色盛りの方が多めなのかも知れない。
暫くして運ばれたそばは画面の手前が二八のせいろで奥のが黒みが強い十割の田舎である。何れもそばは簀の子敷きの皿盛りでつゆ入りの猪口と薬味小皿が添付される。小皿の薬味は刻み葱と山葵の標準的な組合わせ。
遊び心でせいろと田舎を相盛り風に並べてみると
せいろの麺の白さが一際目立つが白い麺にも疎らではあるが蕎麦の実の黒皮に由来するが黒いホシが見えている。
十割そばの田舎は麺の黒い表面に多数のホシが埋込まれている。
せいろのそばを箸で掬うと期待通り柔軟な腰を備え口当たりが良い食し易い麺で繋ぎ粉の効果が存分に発揮された上品な仕上となっている。
一方の田舎はご覧の通りやんちゃを尽くした乱暴さを形にした様な剛直な麺でせいろとは対極の存在と感じる。
大概の十割そばは堅めの麺を口腔内でしっかり噛み砕いてその風味を味わうものである。しかしこのそばは噛み砕くと奥歯に粘り着く成分が残り不快感が伴うのが残念に思う。
【余談: 十割そばの品質】
歯に粘り着くそばの主要な原因はそば打ち初期段階の水廻しの不十分さにあるのではないだろうか。
水廻しが不足するとそば粉同士の結合不足で粉と水分が分子レベルで十分に結合しない半練りの泥濘(どろぬま)状態になると想像する。
そば粉は本来結合力が弱いので強い結合力を有するグルテン成分に富む小麦粉を添加した二八そばや外一そばが一般的に支持を集めてきたがそば粉のみで打つ十割そばも打ち方の技量次第で優れた品が生産される。
個人的な嗜好ではあるが宮城県七ヶ宿町の「がんこ」や山形市の「梅そば」はそれぞれ趣は異なるが提供している十割そばの仕上は見事である。
がんこは先にも記事を掲載しているが梅そばは暫くご無沙汰しているので近々訪問しなくては…
【そば湯】
そばは良く見掛ける角形の湯桶で運ばれる。
桶の中を覗くとそば湯が黄色く着色されている。
黄色のそばと言えば韃靼(だったん)そばが思い浮かぶがこの店に韃靼そばの品揃えはなく疑問が沸いたが後の会計時に確認するとやはり韃靼そば粉を添加しているとのことで対応した女将に良く分かりましたねと褒められてしまった。
猪口に残ったつゆをこの韃靼そば粉入りの湯で割ってそば湯を味わったが韃靼そば特有の微かな苦味が快かった。
因みに黄色を帯びた韃靼そばは漢方薬風の独特な苦味を有するので子供には不向きな大人のそばである。
そば湯割りを飲み干した後に内面が白いつゆ猪口にそば湯を注ぐと塗物の湯桶より独特な色彩を容易に確認できる。
【初訪時から蕎麦祥の変化】
既に述べた通り蕎麦祥は2017年7月に初訪の記事を掲載しているが本稿の執筆にあたりアーカイブ版を読み返すと今回との相違点が見出される。
先ずは価格設定で6年前とは経済事情が異なるので価格の改定は当然と思われるが現在価格差があるせいろと田舎は¥830と同額であった。そば粉と繋ぎの小麦粉は仕入値が異なるので価格差が生ずるのは必然かと思う。因みに現在¥1,000の日替わりも\940であった。
次はそば湯桶の形で6年前は丸形の湯桶が使われていたが現在は角形に変わっている。但しそば湯は以前から韃靼そば粉を添加した黄色であったが当時の私は韃靼そばを食した経験がなく疑問を抱えたまま帰宅し試行錯誤の末にネット情報から韃靼そば粉に行き着いたと自らが記していた。しかし再訪から本稿執筆時点に至る迄この経緯が筆者自身記憶の片隅にも残っておらず韃靼そば粉を確信したと自慢げに記述してしまった。(赤面)
【終章】
栗原市築館の中心街から西に拡がる田園地帯に店を構える蕎麦祥は常時3種の手打ちそばに加えて手打ちうどんも提供する手打ちそばの専門店で主要な国道からは外れているがカーナビの案内に従えば10分弱のドライブで容易に達する位置にある。
喉越しの良いそばならせいろの二八そばがお勧めで野趣を求めるなら堅めの剛直麺に仕上げた田舎の十割そばの品揃えもある。上品さを優先したい向きには更科粉の白色に柑橘系等の香り成分を練り込んだ日替りそばの選択肢も用意されている。
完
(00:00)
2023年12月22日
【新そばまつり会場の内部】
12:00からの時間帯を選択していたが会場運営がスムーズに進んだらしく定刻前に青色整理券の番号が順次案内されて80番迄の入場が可能となった。
会場内は4年前迄とは入場者の動線が大きく変更されていたがそれ以外のそば打ち場や屋外にテントを張り出した釜場とその手前のそば渡し口、つゆの提供台、そば湯の提供台、そばがきのコーナー、お代りそば券販売カウンター、釜場とは逆側にテントを掛けた回収食器の洗い場等々は以前から変わらぬ配置である。
【入場客の動線の変更】
4年前までは番号案内に従って入場すると先ず入口で入場券の部分と引換えにお椀が手渡されそのまま会場内の中央通路を直進して奥のそば渡し口でお椀にそばを受取る方式でそばを食する客席は中央通路の両側に2分割されていた。
今回はお椀を受取ると左に進む様に案内されて突き当ったそば打ち場を左に見ながら奥迄進んでそば渡し口の手前の受付に至りそば1杯目の引換券をもぎ取られて渡し口に進むのだが
釜場の都合でそばの供給が滞ると渡し口の手前で待機することになる。
待機中に撮影した釜場は毎度お馴染みの造りで会場外壁の仕切りを解放した屋外部に雨除けの仮屋根となる黄色のテントを張りプロパンガスで炊く移動式の大型茹で釜が稼働している。
待機が解かれてそば渡し口に進むと手持のお椀にそばを受け取る。以前そばの量は計量用のお椀に満たした一定容量を客のお椀に投入する方式であったが近年は電子秤で計量する重量方式に改められている。
そばを受取った先にのテーブルに並ぶ漬物小皿を載せたそばつゆの猪口も受け取りそば椀とつゆ猪口を両手に持って客席に向かい空席を見つけて着席する。
ここまで述べて気付いたが以前の中央通路方式より会場を時計回りに迂回する今回の通路はそばを受取る迄の待機人数容量の増加が見込めると伴に中央通路の廃止で左右に分断されていた客席が一体化され空席の見通しが向上して混雑緩和の改善に寄与しているのではないだろうか。
【来迎寺在来の新そば】
これは取敢えず客席に着き両手で運んだそば椀とつゆ猪口から解放された直後の撮影。
以前の会場で漬物は客席の卓上で随時補給される食べ放題であったが今回はつゆとセットの小皿で提供される方式に変更されたのがちょっと残念であるが
昨今の物価高の情勢では致し方ない措置なのかと思う。
来迎寺在来種新そばの手打二八そばは3mm程の中細麺で多数のホシ(蕎麦の実の黒色外皮)が鏤められて香り高く仕上げられている。
客席の卓上には多量の刻み葱を収めたタッパーとチューブわさびの薬味は見慣れた配置である。
そば食後に味わいたいそば湯は釜場側でそば渡し口とつゆ猪口のテーブルに並ぶ位置に配置されているので一旦客席を離れて取りに出向く必要がある。以前は客席を巡回するフロア要員が卓上で残り少なくなった漬物皿へ漬物の供給やそば湯配布のサービスを行っていたが今回はフロア要員の姿はなくセルフサービスが原則となっている。
そば湯の容れ物は通常のそば店で見られる塗物の桶ではなく従来からステンレス製の頑丈な薬缶が採用されている。これは大人数が集う会場で機能を優先した措置であろう。
因みにこの形状の薬缶は新庄そばまつりでも採用されている。
1杯目のそば食中に感じていたが今回のそばつゆは出汁の力に甘い香りを纏った上質なもので大量生産が必須の行事で供されるつゆでは極上の品質である。
実際つゆをそば湯で割り込んでも出汁の風味が残り続け良質な飲物を味わうことができた。
そば湯の後味を残しながら直ちに2杯目のそばの調達に向かった。
席を立つとそば渡し口と
つゆ猪口と漬物の供給台を間近に観ることができた。この光景は先に述べた入場者の動線変更で実現したもので以前はこの位置に中央通路がありでそばを受取る入場者の行列があった。
空になったお椀を携えて再びそば渡し口から運んだ2杯目のそばとそばつゆに漬物がこちら。
嘗ての食べ放題から小さな皿盛に変わった漬物だが大石田独特の茄子のぺそら漬の他に青菜や根菜類が満載されている。
そばは1杯目と変わらず透明感がある表面に沢山のホシが見える
中太の二八そばだが箸を進めると
イレギュラーな太麺が出現した。平打ちに見える太麺は明らかに通常のそば切り作業から外れた規格外でクレーム対象かも知れないが珍しい経験として受容の範囲である。
2杯目のそばも美味しく戴きそば湯で割った上質なつゆスープの風味も堪能し満腹状態でそば食を終えた。
食後のそば椀やつゆ猪口に加えて割箸や漬物皿の廃棄物等使用した全てのものは出口近くの食器返却口迄持参し食器類は返却口に廃棄物は分別してゴミ箱へ投入して後片付けも済ませ出口に向かうがその前に
最後の楽しみのくじ引きが待ち構えている。
2杯分のそば引換券を使った後の残券と引換えに三角くじを引くことができ地元の産品や日本酒等の景品が用意されているがくじ運に恵まれぬ身で今回も参加賞的なポケットティッシュを頂戴して会場を後にした。
【終章】
新型コロナウィルスの爆発的な感染発生に依り3年の空白を挟んだ久し振りの訪問となった新そばまつりで会場前の出店の賑わいや会場内の雰囲気は従来と変わらず来迎寺在来種の蕎麦収穫期の熱気を感じることができた。
但し12:00前後の入場時にそば打ち場には職人の姿がなく作業を終えていた状況から以前より参加者が減少している様に感じたのが少し残念である。現在も県外からの訪問者が二の足を踏んでいるのではないだろうか。
2023年の大石田新そばまつりはそばだけでなく極上に仕上げられたそばつゆが印象に残った。
完
(20:00)
2020年08月14日
果物の出店から道路を隔てた農協があるブロックには宮城県南三陸町の業者が例年出店している水産物販売があり若布や昆布等の水産加工品に加えて
生のガキやホタテ等を網焼きで提供するのも恒例となっており
焼き上がりを待つ客が行列を成している。
多岐に渡る出店を一通り探索したが740番台の入場には更に時間があったので網焼きの行列に加わってカキ焼を調達し待合テントのパイプ椅子に落ち着いた。
【入場】
暫く待合所に待機した後12:50頃になって入場が可能となった。
玄関から会場内に入ると整理券が回収され前売券下端の入場券が切り取られた後にそばを受け取るお椀が渡されるのは例年通りの運営方式でその儘会場内を進んだ奥のカウンターに並んでそばを受け取る。受け取りカウンターは一杯目と二杯目が左右に分かれており二杯目の供給が優先されている様に見える。その理由は簡単で二杯目が滞ると入場者の会場内滞在時間が長引くので連動して新規の入場者の待ち時間も増えるという人間移動の社会原理に基づくものであろう。11:00~13:30の僅か2時間半の短時間に1500人を超える来訪者をスムーズに捌く工夫の一端が垣間見える。
そばを受けたカウンターの左右にはつゆ猪口を並べるテーブルがありそば椀とつゆ猪口を両手に携えて会場内の空席に着席すれば新そばを味わう体制が整う。
今回は入場からそばカウンターに至る会場内光景を一切撮影しなかったが以前の記事で何度も紹介してきた風景と大きな相違がない故とご理解願えれば幸いである。
【新そば】
大石田の新そばまつりは冷そばの範疇にあるもりそばのみに限定されている。先に紹介した新庄そばまつりを始めとする多くの会場では冷たいもりそばと温かいつゆ掛けのかけそばから選択する方式が主流となっている。新そばまつりが開催される秋季は天候変動が大きな時季でもあり寒冷な日には確実に温そばの需要が増す筈だが大石田では冷たいもりそばに徹しておりそば切りの本質を無言で主張する頑なな姿勢にそば好きの小気味良さを感じる。
客席に落ち着いて卓上にそば椀とつゆ猪口を配置すれば大石田産の新そばを味わう段取りが整う。
同じ卓上には刻み葱やチューブ入わさびの薬味とステンレス薬缶に収めたそば湯に漬物皿が用意されており漬物やそば湯は場内の担当者が巡回して随時補給されている。漬物は会場内に限り食べ放題となっており薬味と共に必要分を用意された紙皿に取り分けて戴く。
大石田産来迎寺在来の新そばは例年二八そばで供される。白味が強いそば切り麺には細かい粒子となった多数のホシが内部まで鏤められた透明感も備えている。
割箸で掬ったそばは3mmh度に程に切り分けられた標準的な中細麺で適度な腰の強さとつゆの絡みが相俟って口当たりの良さを感じる。
嘗ては麺の太さに極端なばらつきがあり極太そばに苦言を呈した経緯もあったが最近の二八新そばは均等な品質が確保されていると感じる。
食後のそば湯はそば食の礼儀作法で残ったつゆに薬味を加えそば成分のルチンが溶け込んだそば湯を加えて飲み物に仕立て余韻を楽む。
暫しの余韻に浸った後は空になったそば椀と二杯目の引換券を携えて再びそば受けカウンターに向かう。
二杯目のそばはの外見は一杯目と変わらぬ印象で
透明感を感じるそばに内包するホシや
中細麺の切り寸法も一杯目との相違を感じない仕上がりに見える。
10数名を下らない数多くの打ち手の手作業で前夜から用意されるそばは多少なりとも品質的なばらつきが在り得る筈だが3000食を下らないそばの提供で均等な品質を維持する職人集団の技は秀逸の評価に値すると思う。そば打ち職人の熱い想いを感じる。
二杯目も完食して二度目のそば湯を嗜み2019年の大石田新そばまつりの締め括りとした。
【終章】
山形県内の蕎麦品種は大きく最上川上流の南部地域と下流側の北部地域に分かれており山形市や村山市などの南部では「でわかおり」、尾花沢市や新庄市などの北部は「最上早生」の栽培が主流となっている。
大石田町は北部地域に属しているが独自品種である「来迎寺在来」種を生産し11月下旬には20年以上も前から町の主催で盛大に新そばまつりを催す歴史を重ね「来迎寺在来」は大石田町産とのブランドを確立して来た。この様な実績からそば産業の振興に並々ならぬ想いを感じる町である。
完
(00:00)
2020年06月26日
【手打ち藪そば】
品書の探索を一通り終えて手打ち藪そばの天ざるそば¥1050を注文した。品書にざるそばともりそばの区別がない事に気付いたので刻み海苔の有無を問うと海苔付きと確認できたので海苔無しの提供をお願いした。
暫くして運ばれた海苔無しの天ざるそばは簀の子を敷いた皿盛りで
刻み葱と練りわさびの薬味を収めた竹製容器に
そばつゆの徳利と猪口が付く。
別の角皿に盛られた天ぷらは南瓜、茄子、ピーマンと大葉(青紫蘇)の夏野菜4種に海老が加わる5品となっている。
手打ち藪そばを称するそばは白身が強い中細麺に見える。
仔細に観察すると透明感に乏しい表面に疎らに散りばめられた薄茶色のホシを認め。これらの外見から判断すると丸抜きの蕎麦粉に繋ぎ粉を加えた二八系のそばではなかろうか。
割箸に掬い上げた麺は標準的な3mm程の太さに切り揃えられている。
今までの経験ではそば切りの工程が手作業なら切り幅に多少のばらつきや不規則な切れ端の混入も高い確率で認められる筈だが手打ち藪そばの太さはは極めて均質で機械切断の可能性が脳裏に浮かぶ。
実際に食すると中細の割には麺の腰が弱く茹で過ぎが疑われる。手打で捏ねてしっかり打った生そばを20~30秒程茹でたならもう少し強い腰を感じて然るべきかと思う。
つゆは甘めに仕上げられているが中細麺に適度絡む相性は良い。
腰が弱い故か食感が物足りなく早々に練りわさびの風味を添えることになった。
大方のそばを食べ終えた後に残った短い切れ端は均一な太さを保ったまま千切れており腰の弱さの傍証かと思われる。
【天ぷら】
薄衣の天ぷらは焦げ目もなくさくっとした食感が上質で塩味で賞味したかったが卓上に塩の用意はない。
従ってそばつゆが唯一の味付け手段となるのだが天つゆ用の器もないのでつゆ猪口を共用する羽目に陥る。つゆ猪口に天ぷらを浸すと天ぷらの油が猪口に溜るのでそこに冷たいそばを浸せば油の被膜を纏ったそばを食する以外の選択肢がない。
この様な事態を避ける為に気の利いた店ではつゆ猪口に加えて広口の天ぷら専用つゆ皿を添えており更に高度なサービスになるとそばつゆとは濃度を変えた天ぷら専用の薄めのつゆが専用皿で供されることもある。この様なサービス水準を誇る大概の店では岩塩や抹茶塩、柑橘塩などの塩味手段も欠かさず提供されている。
天ぷらが上質である故に食し方にも幾つかの選択肢が欲しいところだが今回は止むを得ず味付け無しで戴くことになった。
【そば湯】
そば湯はあちこちの店で良く見掛ける円筒型の湯桶に収めて供される。
蓋を外して中を覗くと桶の底が見える程の透明な湯が張られている。ごく普通の釜湯であろう。
残ったつゆにこの湯を注いでそばつゆを割りスープに仕立てるのはそば食の嗜みである。因みに先程紹介した麺の切れ端も加えてルチン成分の増加を図った。切れ端といえども残さずに戴くのはそば食の礼儀であろう。
そば食中には使わなかった刻み葱の風味も加えてそば湯を味わいそば食を終えた。
【さかち庵の代表者】
さかち庵は外観で見た通り二階建ての母屋から東側に増築した平屋部分が店舗に充てられている。
店は男女で運営されており母屋に居住する夫婦が担い手と容易に想像できるが厨房内で立ち働く気配を感じる男性は客席からの声掛けには全く応じずご婦人らしい年配の女性が専ら接客を担当している。
先に述べたざるそばの海苔の有無や食後の清算で厨房に声を掛けても女性が現れるまで全く応答がなく厨房内からは女性を呼んでいる男性の声が漏れ聞こえていた。
既に紹介した会計時の会話で北海道産蕎麦を使用と聞いたのは女性からで会計レジ脇に用意されていた店の名刺は女性の代表者名が記されている。確か店内に掲出されていた衛生管理者も同じ女性名義となっていたので店主はこの人物なのであろうか。但し厨房の気配から伝わる雰囲気からそばを打つ主役は接客を極度に避けている男性ではないだろうかと思う。
【終章】
平泉とはいえ中心部の観光地からは距離がある農村風景の集落で自宅続きに構える店舗は年配夫婦が営むちょっと変わった接客方式が気になるそば店であった。
手打そばの品質には疑念が残るが天ぷらは上質と感じた。次に訪問する機会に恵まれれば今回は経験しなかった更科そばと手打ち藪そばの食べ較べを試みたいと思う。
完
(00:00)