2019年10月18日

【序章】
 そば店巡りをしていると訪問したそば店が臨時休業という不運に見舞われ途方に暮れることは幾度となく経験している。
今回は福島県の猪苗代町でこの様な事態に直面した後にR49の沿線で遭遇したそば店「三四郎」の飛び込み訪問記である。

【そば店の休業日】
 遠方にあるそば店を初めて訪問する際は事前にネット情報等を一通り調査する。特に営業時間帯と休業日の確認は不可欠であるが不定休の店と臨時休業の店頭表示が最も厄介で事前の予測は不可能である。
不定休は休業が無いコンビニ同様で通年無休の印象を受けるが文字通り定休日を定めず休業日は店の判断次第と受け取ることもできる。特に個人経営が多い小規模なそば店では亭主や家族の体調不良や高齢化に依る従業者不足等諸般の事情で臨時休業の確率が増大する。
また週末限定で開く店が少なからず存在すると共に東北地方の山間部では積雪期に長期休業する店もあるが事前調査で大まかな状況把握は可能である。それでも営業中を確認して訪問すると臨時休業とか貸切り営業で入店が叶わなかった不幸な経験もある。
しかし何より最大の難関は亭主の都合次第の気まぐれ営業で事前の予測が出来ない儘に現地に赴き暖簾の有無を見届けなければならない店である。

【気まぐれ営業の店】
 元号が令和に変わって間もない6月中旬に猪苗代町内で目指したそば店はまさしく気まぐれ開店の店で
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  本日休業
複雑な経路を辿った先の店頭には暖簾が無く本日休業の立札が今日は営業しないぞと店主の強い意志表明があり初めての訪問は叶わなかった。
 猪苗代町内には猪苗代そば街道が組織されており既に掲載した「まるひ」の記事でも触れている通り本稿の執筆時点では17店舗の加盟が確認されている。従ってその加盟店のいずれかに向かう選択もできたが進路の都合で猪苗代湖畔の国道R49から郡山方面の店を探すことにした。

【手打そば三四郎の店】

猪苗代町三四郎の位置地理院地図
 猪苗代湖北岸道路のR49を郡山方向の東へ進んでいると上戸(じょうこ)トンネルを潜り抜けた上戸浜で手打ちそばうどんの大きな看板を掲げる店に遭遇する僥倖に恵まれた。
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  三四郎店舗外観
 国道脇の駐車場に車を滑り込ませると切妻屋根の店舗建物の前面に手打ちそばうどんの大看板がありその軒下の玄関に「三四郎」の屋号看板が見えている。
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  国道R49と駐車場
駐車場から今来た国道を振り返ると猪苗代湖の湖面に落ち込む緑の山裾の下端にトンネルの東口が見えている。手前の青看は猪苗代5kmと会津若松30kmの表示に加えて終点となる日本海側の新潟140kmの案内が幹線国道の風格を示している。
駐車場の入口で背を向けて立つ青看の表示は確認しなかったが東方向の郡山市から国道の起点で太平洋岸都市であるいわき市を案内しているのであろう。
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  玄関
 車を降りて向かった玄関には筆太の黒文字で「三四郎」と染めた白暖簾が鮮やかである。更に玄関脇には「手打生そば・うどん処三四郎」と記された行灯風の自照看板も控えているが木製の屋号看板に暖簾と行灯看板の何れも微妙に書体が異なっており統一性に欠けている。

【三四郎の屋号の疑問】
 実は文字書体に限らずこの店の正式な屋号も不明である。本稿の表題に採用した「そば天国三四郎」は猪苗代町の観光案内の記載を採用したもので既に見た店頭や駐車場に設置された大看板には「手打ちそばうどん三四郎」と記されている。
また店内に配置された名刺の屋号は「蕎麦天国三四郎」と印刷されているのでどれが正式な屋号なのだろうかと戸惑ってしまう。
因みにネットを検索すると大方のサイトで「三四郎」の単純な呼称を表題としているが例えばこのサイトに掲載されている写真は恐らく以前の姿であろうが切妻屋根に載る大看板の文字は今より控えめで「手打生そばうどん」と表記にも僅かな相違を認める。
先に紹介した玄関脇の行燈看板は「手打生そば・うどん処三四郎」の表記で現存されていることから最近になって大看板を改装して生そばの「生」を取り除いたのではないだろうか。
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  大看板の下地
改装されたであろう大文字部分の下地の色違いがこの推論の査証である。
これらの状況を考慮すれば「手打そば三四郎」とするのが傍目には適正かと思うが店内に置かれた「蕎麦天国三四郎」の名刺からは異なる指向の可能性もあり難解である。
従って以降は単純に「三四郎」の呼称で統一する。

【三四郎の店内】
 白暖簾を潜って入店すると右手はカウンターの奥に厨房があり
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  テーブル席
左側は奥まで続く土間にテーブル席が配置されている。
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  座敷席
右側に置かれたカウンターの奥は隠れ部屋の雰囲気を感じる畳敷きの座敷の設えがあり空席があったこの空間に招き入れられた。
座敷に陣取る客は高齢の夫婦連れやグループで地元の常連客が集う店の色濃い雰囲気を感じる。

【品書】
 席に着いたが座卓上に品書は見当たらず客室の壁面に貼り出されている。
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  品書
 冒頭にある天ざるそばと天ぷらそば¥1365やににしん天ざるとにしん天ぷら(そば)\945は各々同程度の種を使う冷そばと温そばが同じ価格の設定と理解できる。
 けんちんそば(冬だけ)、とろろそば、なめこそば各\945やとりそば、高遠そば各\840は冬季限定の注釈があるけんちんそばは温そばであろうがその他の品は温、冷どちらのそばか判然としない。いずれにも対応できそうに思えるが確認はしていない。
 ざるそば、かけそば、もりそば、そばがきの4品は\735と均一料金で刻み海苔の有無で区分されるざるともりが同額の設定が面白い。又そばがきの品揃えはそば専門店としての風格を感じる。
 この品書を見る限り表の大看板にあった手打ちそばうどんのうどんが欠落している。個人的にうどんの興味は薄いので支障は感じないがそばの部分をうどんに読み替えた注文が可能なのであろう。

【注文】
 お茶と先付の皿が運ばれた時点でもりそばの注文を通す。
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  先付皿
一般的に漬物が多数を占める先付の料理だがこの店では蕗の煮物が供された。
この蕗を摘まみながら改めて卓上周辺を観察すると
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  卓上備品
座卓上には灰皿と七味の小瓶のみが配置されており店内は自由に喫煙できる様子である。
都市部の店舗では今や全面禁煙や煙禁分離が常識となっているが都会を離れると旧来の喫煙環境が色濃く残されている様に感じる。

【先付皿:考】
 そば店で供される先付の皿は稲作が困難な地方の町村や山間地域で遠来の珍客を歓迎する歴史を重ねたおもてなしの文化で大都会のそば店では寡聞の慣わしである。
更に言えば遠来の客に手打ちでそばを振舞うこと自体が文字通りおふるまいとされる最大級の歓待行為でありそばが打ち上がる待ち時間とそば食の口直しを兼ねて常備保存食の漬物類が供されてきたのであろう。地方都市から山里の店になる程多くの漬物類が供される所以かと思う。

【もりそば】
 蕗の煮物を摘まんでいるともりそばが運ばれる。
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  もりそば
 角型蒸籠に盛られたそばはつゆ猪口と薬味の小皿が添得られている。薬味は刻み葱とわさびの2種で標準的なもの。
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  手打ちそば
そばは白味が強い更科系の風貌で
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  十割そば
ズームアップすると透明感のあるそばは切り幅に若干のばらつきを認める平打ちの細麺に仕上げられており蕎麦の外皮に由来するホシの黒点が疎らに見えている。
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  細打ちそば
割箸に載せた2mm幅程の細麺は箸に掬っても千切れないしなやかな腰を備えて口当たりも優れた上質なそばで辛味と甘みを併せ持つ濃厚なつゆとの相性も心地良い。
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  更科そば
食べ進めて残り僅かとなっても透明感を保った白色のそばは簀の子の上に切れ端の断片が認められず千切れ難い腰の強さを証明している。
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  わさびと
そば食の後半には細打ち麺にわさびの風味も載せて十割そばの旨味を感じる幸せな一時を過ごした。

【山菜天ぷらのサービス】
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  山菜天ぷら
 そば食中に注文していない山菜の天ぷらが供された。サービスでと告げられて〇〇の天ぷらですと説明を受けたが初めて聞く名前は脳裏の記憶領域に痕跡を留めていないのが残念である。笹の葉に似た十数センチ程の緑葉は見た目よりも肉厚で弾力を感じる食感は食べ応えと旨味を備えた逸品であった。
店内の雰囲気から明らかに新参者と識別できる外来者に供された最大級のサービスと感じ店側の心配りを有難く頂戴した。

【そば湯】
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  そば湯桶
 そば湯は丸形の湯桶で運ばれる。
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  そば湯
桶の中を覗くと底部に白濁した蕎麦粉成分の沈殿がある普通の釜湯に見える。
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そば割り
このそば湯をつゆ猪口に注ぎいつもの通りそば湯の飲み物を調製してそば食を終えた。

【終章】
 想定外で偶々遭遇した店であったが手打の十割そばはしなやかな腰を備えた色白な更科系の細打ち仕上げで口当たり優れた上質なそばを提供している。
 会計時に確認するとこの店のそばは毎日女将が手打ちしているとのことであった。
 個人的な評価ではあるが猪苗代町の三四郎は十割手打ちそばを供する優良店に加えたい。




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